社会的であるべきは言葉との距離も

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このところ「社会的距離」という言葉を目にするたびにモヤっとしています。「social distancing」の和訳ですが、「社会的距離」という言葉を目にして、説明を受けることなく正しい意味が分かる人はいるのでしょうか。

感染症の拡大を防止する上でとても大切なキーワードなのに字面から情報がまったく入ってきません。「social distancing」は、病気に感染しないように他人との距離を2m程度空けることを意味するそうです。それなら「感染予防距離」や「感染防止間隔」とした方が好ましいように思います。

いやいや、ほかにもさまざまな意味が込められているのでそんな単純化すべきではない、新しい言葉なのだからきちんと内容を学べばすむことだ、という考えも成り立つのかもしれません。ただ、現在のような非常時にやりとりされる情報は簡潔かつ平易であるように心がけ、意図が明確に伝わらない言葉を使って時間を無駄にすることは避けるべきと考えます。

オーバーシュートやクラスターもきちんと翻訳していないせいで、なにか得体のしれない怖ろしい雰囲気をまとってしまっています。こういうそれっぽく体裁だけ整えた言葉で人々に不安を与えることがないように、翻訳者は頭をひねらなければなりません。

辞書を引けば「social=社会」であり、「distance=距離」であるかもしれませんが、「social+distancing=社会的距離」とするかどうかは、「伝わるか」という角度からもう少し検討したほうがいいと思います。

2件のコメント

  1. これは本当にそうですね。
    翻訳をしていて最近実感するのは、IT分野の専門用語の邦訳のまずさです。
    そのままカタカナ音訳を使っているので、予備知識がない日本人にはチンプンカンプン。
    IT分野では90年代には日本が世界の最先端だったのに、この20年ほどで世界に大きく後れを取ったのは、専門用語を平易に訳さなかったために、日本語として理解し難くなったからではないかと感じています。
    言葉は知識や知恵に直結するので、今一度原点に返って国語を見直すことが必要かもしれません。

    1. ありがとうございます(^^)
      IT分野の専門用語は読んでいて頭に入ってこないものが多いですね。
      プログラムの世界で「イベントを発火する」という言い回しが一時期話題になりましたが、これも「社会的距離」と同様、「fire event」を辞書に掲載されている訳語「発火」+「イベント」を使い、無理矢理日本語にしたために意味がさっぱり分からなくなった例でした。
      機械翻訳の性能が向上した今日この頃、人間にしかできないこういう作業をもっと大切にして、じっくり落ち着いて適切な訳語を生み出さなければ、と思います。

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