一幸庵のわらび餅

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自転車和菓子紀行のお時間となりました。需要があるのかないのか判然としませんが、私としてはぜひ記録しておきたい味に出会いましたので、よろしくお付き合いください。

今回目指すのは、茗荷谷にある一幸庵です。AmazonのKindle Unlimited東京あんこ巡りcafe-sweetsの和菓子特集を読み、情報収集に励んでいたところ、こちらのお店にたどり着きました。絶品と評判のわらび餅をどうしても食べてみたい。

秋晴れの空の下、私は朝一で自転車にまたがりました。こちらのお店もそうですが、評判の和菓子屋の看板商品は午前中に売り切れることが多いので、スピーディーな行動が求められます。ライバルが多いのです。

調布の自宅からは、甲州街道で新宿方面を目指すのが通常のルートになりますが、車道も歩道も幅が狭く、あまり自転車で走りたい道ではないので、別ルートを採用します。

三鷹通りを北上し、JAXAの調布航空宇宙センターのところで東八道路へ。ずーっと東に進み、最近延伸工事が終わった東八と人見街道が交わる当たりから人見街道を久我山方面へ。そのまま久我山の駅を越えて道なりに進むと環八に出ます。環八を少しだけ北上して五日市街道へ。道幅にゆとりがあり、静かな住宅街なのでこのあたりはほっとします。

五日市街道は、善福寺川の緑地を左右に見ながら、やがて青梅街道に合流します。ここから山手通りまでひたすら青梅街道を東進します。3車線ある広々とした道路ですが、歩道側の車線は駐停車が多く、不意にドアが開いたり、車の影から人が出てきたりするので気が休まりません。

中野坂上で山手通りに入り、北上します。自転車用の専用レーンがあって山手通りは快適です。上落合二丁目の交差点で早稲田通りに入ります。小滝橋の五叉路が少々分かりにくいですが、そのまま早稲田通りを進みます。なお、この五叉路に珍珍珍(さんちん)1という町中華があり、非常に気になったのでいつか再訪したいと思っております。

道なりに高田馬場駅を過ぎ、馬場口の交差点で明治通りへ。都電荒川線の線路が見える高戸橋の交差点で新目白通りの方へ曲がります。面影橋という趣ある駅名を眺めて感心し、武蔵野アブラ學会や肉あんかけチャーハンの看板に心を奪われていると江戸川橋の交差点。ここを護国寺方面に進みます。大塚警察署前の交差点を右折し、延々と続く上り坂へ。

坂を上りきり、大塚一丁目で春日通りに出たら、あともう一息。春日通りは歩道も車道もゆったり。クリーニング屋さんの赤い看板を目印に左折して一幸庵に到着。所要時間約1時間半。

一幸庵

店内には先客がいたものの、わらび餅は私を待っていてくれました。わらび餅×4、きんとん×2、栗ふくませ×2を無事入手。自転車をこぎ続けていた私の体はエネルギーが枯渇しています。すぐにあんこを補給しなければ。

幸い、一幸庵の周囲には多くの公園があります。私は少し自転車を走らせ、筑波大学の横にある教育の森公園のベンチに腰を落ち着けました。近くの保育園の子どもたちが走り回っています。清掃員の方がいて、公園内はとてもきれいでした。

包装を開き、わらび餅と対面します。黒須黄奈粉に覆われたわらび餅は、手で持つことが難しいほど柔らかく、包まれた中の餡がずっしりとした重量となって存在を主張してきます。下に敷かれたセロファンをそっと持ち、慎重に口に運びます。

わらび餅全景

するりと口に入ったわらび餅は、とろとろと溶けるように滑り落ちてゆき、こしあんのわずかな舌触りを残して消えていきました。これまで経験したことのない食感。こしあんの甘さ、柔らかさ、舌触りも絶妙で、わらび餅の滑らかさを邪魔することなく、しっかりと美味しさを舌に刻んできます。

わらび餅断面

嗚呼、長く口の中にとどまっていて欲しいのに、後ろを振り向きもしないであなたは行ってしまう。一呼吸置いて、もうひとついただきました。また、秒で溶けました。ここまでの道のり1時間半、実食時間は合計でたぶん数秒。ただ、私は幸福を感じていました。これ以上、何を望むというのか。

帰途、私の後ろに並んだ高齢の男性客のことを思い出していました。その方は、店に入るや前のめり気味に「あの、わらび餅を」と店員に声を掛けたのですが、「はい、おいくつにいたしましょう」と言われて、さてどうしたものかと腕組みして悩み始めたのです。「4人なんだよ。どうしようか」と困ったように笑い、「ご家族ですか」と聞かれ、「そうそう、そうなんだけど、6個かなあ、いやでもなあ」「お召し上がりは今日中でお願いしますね」「ああ、そうだよねえ」と上を向いて考え込みます。しばらくして男性は「うん、8個!」と注文していました。きっと「ひとり1個で良いかもしれないけど、ここのはおいしいからもう1個欲しくなるかもしれないし、それでもうないっていうのは残念だし、余ったら俺が食っちまえばいいかあ」とか考えてたのでしょうね。誰に出しても喜んでくれるはず、という絶大な信頼を感じ、私もうんうんと心の中でうなづきました。

最後に同店の素敵な包装紙の画像を置いておきます。

包装紙

  1. ただし、現在は店名無しとのこと []

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