ジェイソン・ボーンとSQL

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先日、吉祥寺オデオンで『ジェイソン・ボーン』を妻と鑑賞してきました。

私も妻もボーンファンで、今回の作品も楽しみにしていたのですが期待通りの面白さでした。DVDが出たら購入しようと思います。

jason-bourne

マット・デイモン、相応に年を取ってますがアクションがんばってます。1970年生まれの彼ががんばっているのを見ると、私もがんばろうという気にさせられます。少しでもボーンに近づくために、まずは道具だけで鍵を開けるテクニックをどこぞで習おうと思います(警察叔叔就是这个人)。

ニッキーは年を重ねてからの方が貫禄が出てきれいだなと思いました。なんかちょっと頼りない感じだった1作目のころとは違い、できるオーラを身にまとっていたのが印象的でした。年を取るというのも悪いことばかりではありません。

さて、そんなニッキーがアイスランドのハッカー御用達の施設でハッキングにいそしむシーンがあるのですが、そこにいるハッカーたちが不思議なセリフを口にします。

Use SQL to corrupt their databases.

「SQLでやつらのデータベースを壊してやるぜ」くらいの意味でしょうが、なんと言いますかボクシングでたとえると「ダッキングでKOしてやるぜ」的な電波感を醸し出しています。

好意的に解釈して、SQLインジェクションで想定外のINSERTやUPDATE、DELETEなんかを実行させてデータベースをどうにかしてやる、ということを言っていると取ることもできますが、だとしたら「Use SQL」とは表現しないように思います。これじゃ「SQL」が特殊なツールみたいです。

巨額の予算をつぎ込んで作った映画のはずなのに、スタッフは誰も疑問の声を上げなかったのでしょうか。私の頭は大きなクエスチョンマークに占拠されました。

ただ、これと同じようなことは私の仕事でもよくあるので、他人事ではないな、と少し落ち着かない気分になりました。翻訳者は日々いろんな分野のドキュメントを扱います。ここ最近の私の仕事を振り返っても、IoTやドローン、自動運転から紙おむつ、観光案内まで実にさまざまなジャンルの案件がありました。

当たり前のことですが、私は各種分野に通じているわけではなく、依頼されたドキュメントを読みながら、分からないところをとにかく調べます。毎回、新入社員になるような感じです。会社に入ると研修があって業務の内容、専門知識などをたたき込まれますが、それを案件ごとにやります。

それで、調べに調べるのですが、どうしたってわからないところがあると、翻訳会社の担当者あてに申し送りをします。「ここはちょっとよくわからなかったので、こういう意味だと考えてこのように訳しています。もしかしたらこういう意味かもしれません」という風に。格好良くはないですが、わかっていないところをごまかして適当な訳をでっちあげても、クライアントはその道のプロなので見抜かれます。

先方から「ここ、おかしくないですか」なんていうフィードバックが来るとたいへん心臓に悪いです。ジェイソン・ボーンのSQLではありませんが、知ったかぶりをしてそれっぽいことを言うのはリスクが大きいのです。見ごたえのある映画だったのに、私がこのエントリで取り上げているのはSQLのことです。ほかの何より印象に残ってしまったからです。Googleで検索すると、同じような指摘をしているサイトがいくつもありました。

翻訳でも、ほかの部分はそれなりに仕上がっているのに、よくわからなかった部分をごまかすと、受け手はそこしか印象に残らず、そこを基準にこちらを評価するだろうと思います。ですので、あまり格好良くはないですが、分からなかったところは正直に申告すべきです。少なくともマイナスにはなりません。私たちは訳し続け、そのあがりで食べていかなければなりません。その場を取り繕えたらそれでOKというわけにはいかないのです。いえ、ほんとに。

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