DIE FRAU MIT DEN 5 ELEFANTEN

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映画「DIE FRAU MIT DEN 5 ELEFANTEN」を観てきました。

とてもいい映画でした。邦題は「ドストエフスキーと愛に生きる」ですが、この邦題はちょっとどうかなと思います。映画の内容と合っていませんし、とってつけたような印象を受けます。ただ、けちをつけるとしてもこの邦題くらいです。ほかは素晴らしかったです。

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映画の主人公は、84歳の翻訳家スヴェトラーナ・ガイヤーさんです。露独翻訳者で「罪と罰」、「カラマーゾフの兄弟」、「悪霊」、「未成年」、「白痴」の翻訳に取り組んできたそうで、彼女はこの5つの作品を「五頭の象」と呼んでいるので、映画の原題は「DIE FRAU MIT DEN 5 ELEFANTEN (THE WOMAN WITH THE 5 ELEPHANTS)」となっています。ウクライナ・キエフで生まれ、ドイツ軍の通訳として働き、ドイツに移り住み、教鞭を執りながら翻訳に取り組み、子どもや孫に囲まれて暮らす彼女にぴったり寄り添うようにして映画はごく淡々と進んでいきます。カメラとスヴェトラーナさんの距離がすごく近くて、呼吸音から衣擦れの音からすべて聞こえるので、実際に彼女がテーブルを挟んだところくらいにいるような気分になります。

スヴェトラーナさん、背中が曲がって動きも緩慢なおばあさんなのですが、相手に何かを伝えようとするとき、翻訳していて言葉をくみ出そうとしているとき、スクリーン越しにもグッと力が入るのが分かります。意思の力というか、対象にしっかりと向き合う姿勢がとても美しい。行動のひとつひとつがきちんとしていてていねいです。「ていねいに生きる」と書くと生活雑貨を紹介している雑誌やロハス(死語)、田舎暮らしといったキーワードに弱い文化人なんかが頭に浮かび、おしゃれでうさんくさい感じがしますが、本当はこういう何事もおろそかにせず、自分がした選択のひとつひとつに向き合って生きていくことをいうんだな、と思うところ多でありました。

印象的な言葉がたくさん出てきます。相手に何かを伝えるために吟味を重ねた言葉なのでしょう。どこかから切り取ってきたような頼りない借り物の言葉ではなく、どれもこちらの胸にすとんと入ってきます。童話を紹介するシーンがあるのですが、スヴェトラーナさんは「この話の主人公のように誰だって生きていれば大事な選択を迫られることがあるでしょう。そういうときは分かるはずだから心の声に従って踏み出しましょう。たとえその選択が世間の常識から外れるものだとしても」というようなことを語っていました。

生きていると自分がただ流れに流されているだけのように感じることがあります。自分のした選択によってその流れを変えることができたとはとても思えず、自分はもがきながら川下に流されているだけじゃないか、そんな風に感じることがあります。ですが、運命に翻弄されてきた女性がそれでも自分で選択することを説き、自分のしてきた選択に向き合っているのを見ると、自分などまだまだもがきが足りないなと考えさせられました。我が身を振り返って頭を抱えたくもなりますが、不思議と元気も出てくる、そんな映画でした。おすすめです。

関連:映画『ドストエフスキーと愛に生きる』公式サイト

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